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サラリーマンのすらすらIT日記

IT関連を中心とした日々を綴ります。
2013/07/14

「ギリシア棺の謎」の読み比べ−その4

小説の中の探偵エラリーは、やたらと古典文学などからの警句を引用して、周りを辟易させます。これはおそらく先輩作家であるヴァン・ダインが創作した探偵ファイロ・ヴァンスを意識したものと思われます。ヴァンスの引用癖は鼻持ちならないもので、作中の登場人物のみならず読者のわれわれも辟易してしまいます。ただエラリーの場合、偉大な警視の息子という設定なので、多少のことは周りが大目に見ますし、そのせいか読者のわれわれもヴァンスほど嫌味に感じません。作者クイーンの文章力・構成力の賜物かもしれません。

このエラリーの引用句を、2つの翻訳本ではどのように訳されているのか。第12章の最後にこのような引用があります。

井上訳
「La patience est amère, mais son fruit est doux.(忍耐は苦いがその実は甘い)」とエラリーはつぶやいた。「僕はどうやら引用癖が出たようです」
(中略)
「そいつをいったのは蛙です(ラ・フォンテーヌの寓話)」
「なにーーなんだって。蛙だと」
「おお、エラリー君はただ、ふざけているんだよ」とサンプスンは疲れたようにいった。「フランス人がいったのだと思う。ルッソーのような気がする」

越前・北田訳
「ラ・パシアンス・エタメール、メ・ソン・フリュイ・エ・ドゥー」エラリーがつぶやいた。「引用で言うと、こういう気分だな」
(中略)
「フロッグが言ったことばだ」
「んーーなんだ?蛙(フロッグ)」
「ああ、冗談のつもりだろう」サンプソンが気怠げに言った。「それはフランス人(フロッグ)のことだと思う。たしかルソーのことばだ」

井上訳は原語そのものを載せており、ルビが振られ日本語訳が添えられています。他の箇所でゲーテの言葉を引用していますが、そこでも原語そのものとルビ・日本語訳が挙げられています。これが井上氏のスタンスで、私はこのやり方に賛成です。ただ、その後のラ・フォンテーヌの寓話の箇所が不明。ラ・フォンテーヌの寓話で蛙が出てくるものを調べても、「ウシになろうとしたカエル」とか「ウサギとカエル」があるだけで、この引用箇所の説明にはなっていないと思います。

一方、越前・北田訳ではこの辺りは明確です。調べるとイギリス人はフランス人のことを軽蔑して言う時に「フロッグ」というらしい。そして引用されたこの警句は、ジャン・ジャック・ルソーの言葉なので、たしかにフランス人。よくわかる翻訳です。井上訳ではこの辺りのことが全く不明瞭で、私も昔から疑問の一つでしたが、越前/北田訳でその疑問が氷解しました。

ところでこの「忍耐は苦いがその実は甘い」という言葉、野口英世の座右の銘だったそうです。野口はこのルソーの言葉を自らへの教訓としていたそうですが、日本ではルソーより野口の方が圧倒的に有名なせいか、日本では野口英世の言葉として知られているようです。

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